桜が…散る。
「もうすぐ春だな」
下校時に彼女を待ち、そのまま自分の車に乗せて帰るという
日常を繰り返しながら、今日も私は彼女にそう話しかけた。
すると彼女からは、
「どこか故障ですか!?」
との答えが返ってきた。
まったく。彼女といい、彼女の友人たちといい、一体はばたき学園の
生徒は私を何だと思っているのだ。
私が感傷的になってはおかしいとでも言うのだろうか。



MACHINARY



「えー、だって先生」
彼女は口を尖らせて言う。
「いつかの社会見学の時だって、おっしゃってたじゃないですか」
いつかの社会見学…彼女をドライブへ連れていったときのことだろうか。
確かあの時は。
「先生はドライブが好きなんですね、って私が言ったら、
『ああ、ドライブはいい。自分が車になったような
気がする
って」
「…ちょっと待ちなさい」
ほぼ間違いはないが、車になった、とは
言ってはいないような記憶があるのだが。
「だから私、その時からずっと」
私が記憶を手繰っている間に、彼女は話し続ける。
「先生は自動車を構成している部品から出来たんだって、
そう思ってたんですよ」
「…何故そう思った…いや、とにかく」
いつのまにかまた、彼女の話に釣り込まれそうになっている己に気づき、
私は慌てて話を中断させようとした。
「私は機械ではない」
「うーん…」
納得がいかないといったように、彼女は助手席で首を傾げている。
私はついにため息をつき、
「…話してみなさい。君が考えたことを」
「はい!」
彼女はたちまち嬉しそうな顔になり、話し始めた。
「先生が一人でドライブするときは、車と合体できるように
先生の体の構造が変わるんです!

一瞬、眩暈がした。だが私は辛うじてそれを押さえ、
「続けなさい」
「今みたいに私が隣にいるような場合は、人間としての形を
保ちながら、見えないように腰や足のあたりから、車の座席に
アダプターが伸びるんです。つまり、平常時には車のバッテリーの役目を」
「もうよろしい」

ついに頭痛がしてきた。私は彼女の話を遮り、
「そのようなことをどこで学習した」
「はい? それはですね」
彼女はキョトンとして、それでも私の質問に答える。
「日比谷くんと一緒に見たロボットアニメで学習しました。
確か題名は『六神合体ゴッドマーズ』でした」

……。
果たして彼女は本気で言っているのだろうか。
だとしたら…彼女にこのような考察をさせた日比谷には、
厳罰を加えねばなるまい。
「野球部の合宿で見たんですよね。懐かしいなあ、なんて男子は
言ってましたけど」
うふふ、などと笑いながら、彼女は楽しげに言う。
そんな風に笑う彼女も可愛いなどと思ってしまう自分を叱咤し、
私は懸命に平静を装っていた。
「じゃあ先生、ありがとうございました!」
彼女の家の前に着くと、そう言って彼女はぺこりと頭を下げる。
「うむ。また明日」
「はーい!」
にこにこと手を振って、家の中へその姿が消える。
私は車を運転しながら、こめかみに怒りのマークを浮かび上がらせた。
野球部の連中か…見ているがいい。
今年の夏の夜は、私の補習で、予定を埋め尽くしてやろう
ではないか。

今からその時を楽しみにしながら、私もまた、帰路に着いた。


FIN〜

 

 

 

 

「桜花歳歳」のmaimaiget様が、ヒムロカーフェアを開催されておられまして
フリー配布されていらっしゃったお話を頂いて参りました♪

・・・氷室先生、最高です(笑)
凄く素直な主人公ちゃんと、試練が待ち受けている日比谷くんに乾杯v
六神合体ゴッドマーズですか・・・すみません、私、知ってます(汗)
双子の兄がマーグで弟がマーズ・・・って、誰も聞いていませんね・・・ははは・・・(恥)
maimaiget様、ありがとうございました!

maimaiget様のお話を、も〜っと!拝読されたい方は「桜花歳歳」へ、お伺いして下さいね!

 

 

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