さて、今日も彼女を誘おうか。
俺は鼻歌を歌いたい気分になって、職員室を後にする。
早くしないと彼女は、他の男子生徒どもと一緒に帰ってしまうだろう。
何せ気のいい彼女は、断るということを知らないのだから困ったものだ。



MACHINARY 2



「あ、先生!」
私の姿を見つけた彼女は、にこにこしながら走り寄ってきた。
「一緒に帰りましょうよ」
「よろしい。少々待ちなさい」
私は答えて、彼女とともに駐車場へ歩き出す。だが。
「あれ? 先生。いつもの車はどうしたんですか?」
彼女は当然の疑問を口にする。私がいつも止めている場所には、今日は車が
なくて、ただ、鍵が一つ。
幸い人影もないので、
「ふっふっふ。まあ見ていなさい」
私は得意の絶頂になって、その鍵を取る。そして。
「せ、先生?」
その鍵を、私は腹の鍵穴に差し込んで、カチリと音がするまで回した。
「う、うわぁ…」
彼女の声に、賛嘆ではなくやや引き気味なものを感じたのだが、
それはおそらく私の気のせいだ。
「さあ、乗りなさい」
私は見事に変形した(用法が多少違うが、この場合他に適切な表現が
見当たらないのだ)己のボディに、多いに満足を
覚えながら彼女に勧めた。
「あ、あの…どこに乗ったらいいんでしょうか」
彼女は戸惑いながら尋ねる。さすがは氷室学級のエースだ。
逃げもせず、根本的な疑問も抱かず、実用的な
ことのみを質問する。生徒の鏡と言わねばなるまい。
環境への適応能力が非常に高いと言えよう。
「後部ドアを開けて、座席へ座りなさい」
「はい…」
彼女はおずおずと座席に座った。
うむ。やはり通勤路の危険から彼女を守るのに、これほど最適な
ものは他にあるまい。助手席は死亡率が一番高いと言うからな。
理事長に頼んで、改造してもらった甲斐があったと
いうものだ。

だが、あの地下プラントにはあまり行きたくはないな。
などと考えていたら、
「先生…なんだかみんな、先生を避けて行きますね…」
彼女が話しかけてきた。残念ながら現在、私の頭部は車の前方に
なっているため、その表情までは見ることはできない。
「うむ。道路が混まなくて結構だ」
「それもそうかもしれませんね。ちょっと恥ずかしいですけど」
「すぐに慣れる」
「そうですか」

彼女が柔らかく微笑む気配がして、私も小さな幸せを噛み締めていた。


「ありがとうございました! また乗せてくださいね!」
「当然だ。では、君もしっかり勉学に励むように」
「はぁい!」
彼女が家の中へ入っていくのを見送ってから、私は変身解除スイッチを
押した。
彼女を守るためだけにあの車の形になるのだから、自分だけなら別に
人間に戻っていても差し支えはあるまい。
さて、今日は久しぶりにここから自宅まで歩いて帰ろうか。
明日から彼女を乗せて帰ることを思って私は、心が幸福感で
満たされるのを感じていた。


FIN〜

 

 

 

 

「桜花歳歳」のmaimaiget様が開催されておられるヒムロカーフェアで
フリー配布されておられるのを頂いて参りましたv

先生・・・ついにやっちゃったんですね・・・(笑)
主人公ちゃんを守る為に・・・素敵です〜v
荘厳な愛の中にある少しの笑い・・・素晴らしいお話です♪
maimaiget様、ありがとうございました!

この素晴らしいお話を、まだまだ拝読されたい方いらっしゃいますよね?
是非!「桜花歳歳」へ、お伺いさせて頂きましょう!

 

 

 

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