誰にだって人知れない悩みなんて抱えてるもんだ。
他のヤツはそうは思ってないみたいだけどよ、俺にだって
悩みっての、あるんだぜ?
それはだな…。
鉄腕! WASH!!
「あ、カズくんだ、おっはよー!」
「よう」
朝練に出てたら、アイツが声をかけてきた。
実をいうとよ、ちっとばかしアイツのこと、気に入ってんだ。
だから余計になんとかしたいって…。
「ひゅー、いつもながらきついねえ。練習!」
アイツはにこにこしながらやってきて、俺を見上げる。
「だけど、練習の後で飲む冷たいお茶って最高だね」
「だろ、だろ?」
俺もつい嬉しくなって、ハシャいじまう。こいつの前だといつもそうだ。
んでもって…つい話しこんじまうんだな。
今だって色々と…まあその、ウチのこととか、ガッコの勉強のこととか
話してたらだな、いきなりコイツが言うわけだ。
「カズくん。いつもながらでこっぱちに磨きがかかってるね」
「そ、そうか?」
元はといえばコイツの発言が元で、悩みを抱えることになったんだよな。
俺は内心焦ってるけど、それを押し隠して
「お前の気のせいだろ。別に磨きがかかってるとかそんなんじゃ」
「ちゃんと洗わないと女の子に嫌われるよ」
コイツは俺の気持ちを知ってか知らずか、さらっとそんなことを言う。
「油ぁな男の子ってさ、オジサンになってから前からハゲてくるんだ。
カズくんも気をつけないとね」
「…サンキュ」
「ほれ」
少しがっくりきた俺に向かって、コイツはまたいきなり手を伸ばしてくる。
何すんのかと思ってたら、
「いででで!」
「ほーら、鼻の頭の油だよ!どれだけ洗ってないか
これで分かるってもんだ」
いきなり俺の鼻をつまんで、そのままぎゅうううっ!て音がするんじゃないかって
感じに握り締めるんだぞコイツは。
「ほれほれ、ごらんよ」
「んあ?」
少し涙ぐんだ目で、俺はコイツが目の前につきつけたブツを見る。
コイツの人差し指には…真っ白な点々が乗ってた。
「あんだよこれ」
「だから、鼻の頭の油ぁ。あー、汚なっ!」
コイツはさらに俺の心にナイフをぐっさり刺すようなセリフを吐く。
そんな汚ねえんならやるな。
って、なぜか言えねえんだよこれが。…ひょっとして惚れた弱みってやつか?
はいはい、俺はコイツに惚れてますよ、ええどーせ。
「ね? だからちゃんと洗ってきなよ」
「おう…」
それから俺の洗顔な毎日(←?)が始まった。
やってみて分かったことがある。アイツが言ったとおり、どれだけ俺が
毎日顔を洗ってなかったか。
だってよ、顔なんて洗うヒマあったら、その分寝てたほうがいいじゃねえか。
顔なんてよ、水洗いで十分じゃねえのか。やれやれ。
俺は洗面所でてめえの顔を見ながらため息をつく。
アイツはこうやって、悩むことなんてなかった俺の心に色んな宿題を出してくるわけだ。
おフクロなんてえらく驚いて「今日から赤い雪が降ってくるよ絶対!」なんて
言ってるけどさ。
…嫌われたくねえんだよ、アイツにさ。
さて、まあこれはこれでさっぱりして気持ちいいし、今日も元気にガッコへ行くか!
そしてその頃。
「ね? また私の勝ちだよなっちん!」
「いやー、アンタには敵わないよー、あはははは!」
今日は朝練はないらしい。教室では彼女が親友と共に談笑している。
「まさかホントにアイツが毎日顔洗ってくるなんて、想像も出来なかったしさ。
こりゃ、よっぽどアンタに惚れてんねえ。憎いよこの」
「何言ってんのさなっちん」
しかし親友の冷やかしに全く動じる気配もなく、彼女はさらっと言ってのける。
「んなこと関係ないさ。それよかアムールの
ジャンボパフェよろしく」
「…あいあい」
彼女とは一生のお付き合いをしよう。新たにそう誓いなおした親友であったとな。
FIN〜
「桜花歳歳」のmaimaiget様から頂きました♪
こちらの方が、お世話になっておりますのに(汗)
書き下ろしSSを頂ける上にリクエストまでさせて頂けるなんて!!
勿論!即行でリクエストさせて頂きました(笑)
ありがとうございます〜vv
楽しいお話を拝読させて頂けるmaimaiget様の「桜花歳歳」へはLinkからどうぞ♪