…昔、あるところにそれはそれは元気な男の子を産んだ夫婦が
おりました。
そしてその男の子が産まれた晩、「神の使い」と名乗る、背中に翼の生えた
怪しい人物が現れ、その夫婦にこう告げたのです。
「その子は将来、皆が目をそばだてるほどのスポーツ選手になるでしょう。
ですが良いですか」
ぬずい、とばかりにその人は、夫婦へ顔を突き出しました。
「その目の下の『ブツ』は絶対に剥がさないように。
でないと、その子は恐るべきバカになりますよ」



超戦士スズカイザー



…そしてそれから十六年が経ちました。
「あ、鈴鹿君だー、おっはよ!」
「おう!」
あの男の子は「和馬」と名づけられ、それはそれは元気なバスケット選手に
育っていました。
彼に声をかけた少女のことを、ほのかに想っているようです。
「私、鈴鹿君に会えるなんて、『ひょっとして遅刻?』とかって
思っちゃったよー、あはは」
「お前なあ」
男の子が遅刻しなくなったのは、ひとえにこの少女のためであると
もちろん自分から言えるわけはなく。
今日も一緒に登校するだけで精一杯だったのです。



そんなある日。
「おう! ぶつかっといて挨拶もなしか?」
「ご、ごめんなさい!」
部活で遅くなったその少年は、聞き覚えのある声にふと足を止めました。
駅前の繁華街は、最近いつも目つきの悪い連中がたむろしているのです。
(ウチの生徒とかだったら助けなきゃ)
少年は思って、咄嗟にその場所へと駆け出していました。
「あ、鈴鹿君!」
「ああ?」
彼の姿を認めて、嬉しそうな声を上げたのはなんと、彼が日ごろから
憧れている少女だったではありませんか。
「お前! なんだって絡まれてんだよ」
少年が驚いて彼女に尋ねると、彼女は半泣きになりながら、
「あのね、レポート用紙買いにきたら、肩がぶつかちゃって…。
ちゃんと謝ったんだけど…」
「とにかく、俺の側へ来い!」
「うん!」
救われたように彼のそばへ駆け寄ってきました。
それを後ろにかばいながら、
「謝ってんのに、絡むなんて、男の風上にもおけねえヤツだな」
少年は、その男を睨んで言いました。
「んだとお? こちとら、骨が折れたかもしれねんだぞお?
バンソーコーが、カッコつけやがって」
するとその男はへらへら笑いながら、じりじりと少年に近づいてきます。
そして目にも止まらぬ早業で、少年の右目の下に貼ってあったバンソーコー
をびりっとばかりに剥がしてしまいました。
「は、剥がしやがったな…」
「おう、剥がしたがどうした、ひゃっひゃっひゃ」
少年がなんだか苦しそうに言うのへ、男はバカにしたように笑います。
「こ、これが剥がされたら俺は…う、う」
「ああ? どうしたよ?…うわ!」
苦しそうに身をかがめる少年へ、ふざけて顔を近づけたその男は、
驚いてのけぞりました。
見守っていた少女もまた、驚きの表情を作っています。
眼の下のバンソーコーがなくなった瞬間、少年の体は不思議な光に包まれ、
そして…。
「私は超戦士スズカイザー。この世の悪を成敗するため、
はばたき市に降臨した! 世の悪人よ、覚悟!」
なんだか「鬼武者」を彷彿とさせる格好で、再び立ち上がったのでした。
「う、うわあ、ウソだろお?」
そのあまりの馬鹿馬鹿しさに男はもはや腰を抜かし、
少女はといえば、口をあんぐりと開けて見守っているだけです。
しかしスズカイザーと名乗るその戦士は、
「問答無用! 食らえい、不動明王唐竹割りぃっ!」
「ぎ、ぎえええ! も、もうしませんから許して、お願い!」
男は、傍らの少女が(おしっこチビったんじゃねえのか)
と思わず考えるくらいに情けなく涙を流して懇願しています。
しかし、スズカイザーは鎧の下の顔をにやりと歪め、
「もはや遅いわ、死ねいっ!」



…街の人たちは、呆然としながらも「これで街の秩序は少し保たれるかも」
と考えていたそうです。



「…か君! 鈴鹿君!」
少女の声が、次第にはっきりと聞こえるようになり、ようやく少年は
目を開けました。
「大丈夫?」
「う、うわ! なんだよお前、んなドアップで!」
憧れの少女の顔が、息がかかるくらいに接近していたので、思わず少年は
顔を赤らめていました。
「何言ってんの! さっきすごかったじゃない。私、びっくりしちゃったけど
…ありがとう」
「…? お、おう…」
(何かやったらしいな俺)などと思いながら、少年はとりあえず頷き、
「あ? えらく真っ暗じゃん。送ってくぜ。お前もその…」
「うん?」
「いちお、女だしな。危ねえから」
「んもう!」
少女はその言葉に少しだけふくれ、それから笑い出しました。



少年が、身に潜んだ真の力に目覚めるのは果たしていつなのでしょうか。



FIN〜

 

 

著者後書き:葵様へ捧げる1周年企画SS第1号。
…こんなのでよろしいんですか? 本当に?
…もらってやってください、もはや言うことはございません…。
だから和馬君は「バカ」になりました…ははは。

 

「桜花歳歳」のまいまいげっとさんから頂きましたvv
鈴鹿くんのバンソーコーの謎が、やっと解けましたよ〜(笑)
そうだったんだ〜と思わず納得!(頷)
鈴鹿くん好きな私としては、なんて嬉しい頂き物でしょうvv
まいまいげっとさん、ありがとうございました!

まいまいげっとさんの素敵サイト「桜花歳歳」へはLinkからどうぞ〜♪

 

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