「はい、おしぼり」
先輩はそう言って、ジブン達にいつも気を使ってくれるっす。
「あ、ありがとうございます!」
受けとってお礼を言ったら、先輩は「いいのに」なんて顔をして、
別の人のところへおしぼりを配りに行ったっす。
ジブン…いつも先輩のこと、尊敬してるっすよ。
野球部のマネージャーって、大変なんっすよね。分かります。
ジブン達の汚したユニホームを洗ったりとか、スコアを付けたりとか、
色々やらなきゃだめで、しかも合宿になったら晩御飯も作らなきゃ
なんないんっす。
知ってますか? 先輩。
ジブン…そんな先輩の後姿に、いつも励まされてきたんっすよ。
だからジブン…甲子園に先輩を連れて行きたいって思ったっす。



ONE SCENE



「うわ、ウチの高校、甲子園に行けるんだ!」
そして夏。先輩は飛びあがって喜んだっす。
ジブンも出場できるんだって言ったら、もっと喜んでくれたっす。
「すごいねえ。頑張ってたもんね。日比谷くん」
「はい、先輩にそう言って頂けて光栄っす!」
「はいはい。照れちゃうから、あんまりそんなこと言わないでね」
先輩は、クスクス笑ってジブンの頭を撫でてくれたっす。
「はい、今日も練習、頑張ってね!」
「はい!」
ジブン、一応そうやって返事したんすけど。
頭を撫でられるの、少しだけ…切ないっす。先輩の方からだって、幾度か
遊びに誘ってくれるし、ジブンが誘えば断らないで来てくれる。
だけど、ジブンを見てる先輩の目…どっか弟を見てるような感じっす。
いつからなんだろう。先輩のこと、憧れて憧れて…ジブンは出遅れたけど 
いつか追いつきたくて、肩を並べて歩きたくて。
背だって、少ししか違わない。もっと大きくなりたいっす。
「はーい、練習はそこまで。お疲れ様!」
グランドに先輩の声が響いて、部員達は口々に「疲れた」とか「ひー」
とか言って、帰り支度を始めてるッす。
ジブンもその中に混じって支度を始めて…ふと顔を上げたら、先輩の
隣に氷室先生の姿があったっす。
…どうしてそんな嬉しそうなんっすか。
先輩は、先生と話をしてたら、ものすごく綺麗な顔をするっす。
ジブンは見たことのない、ジブンには見せてくれない笑顔で。
先生も、教室で見るのとは違って、なんだか嬉しそうで。
…どうしてジブンには、そんな風に笑ってくれないんっすか。
甲子園に行ったら、ジブンのこと男として見てくれるって思って頑張っても。
ひょっとして無意味なものになるんじゃないか、って、このごろは
そう思うようになったっすよ。
先輩と、先生が二人で立ってる姿…ジブンよりよほど絵になるっす…。
ああ、いけないっすね、こんな風に考えてたら、「いい男」失格っす。
甲子園まで、あと一ヶ月しかないっていうのに。



でも先輩。
ジブン、頑張りますから。
頑張って、先輩を甲子園に連れていって、そして優勝してみせますから。
だから、その時には…。
その時には、ジブンを男として見てくれるっすか…?
きっとジブン、先輩の心に届くようなホームランをかっ飛ばします!
だから…。 

FIN〜

 

「桜花歳歳」のmaimaiget様が開催されておられます「キャラと過ごす夏休み」で
フリー配布されていらっしゃるのを頂いて参りましたv

日比谷くんの切ない気持ちが堪りません(じ〜ん・・・)
ガンバレ!日比谷くん!氷室先生に負けるなぁ〜〜・・・と思わず応援(笑)

maimaiget様の素敵SSが拝読出来る「桜花歳歳」へはLinkからどうぞ♪

 

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