Night of beginning 20

 

「今、何時だろ?」


時計は夜中の2時を指していた。
一人でいる家は静まり返っている。


「……眠れないや。」


わたしは眠るのは諦めて机に向かった。
無理に眠る事も無いだろう。

こんな時は勉強するのに限る。


「5日は進路相談だったっけ。」


わたしの希望は進学。
それも一流大学だ。

1年、2年と、のんびり過ごしてきたけど春休みが終われば3年。
進路相談で氷室先生にダメ出しされないようにしなくちゃ……


「……ガンバロー!」


はば学に入ってから、わたしは机に向かう時間が増えた。
氷室先生の授業は、しっかり予習しておかないとついていけないから……

それだけじゃない。
予習、復習、課題、課外授業のレポートの提出と色々あるし。


「クスッ……珪くんなら楽勝なんだろうな。」


テスト中でも眠っちゃうのに成績は良いんだもの、凄いよね。


……ふと、お花見の事を思い出した。
楽しみにしていたお花見は結局、楽しむ事は出来なかった。


「う〜ん、残念!でも……仕方ないよね。」


珪くんは、あれからずっと黙ったままだったから……。
……まるで出会った頃の彼に戻ってしまったみたいに……。




「……つ……くし……?」


珪くんの顔色が一層悪くなった。


「やっぱり!?あの子が何かしでかしたのね?!」
「……違…う……。そうじゃない……。」
「え?でも珪くん……今、凄く反応したよ?」
「おまえ……。いや、違う……。アイツは関係無い。」
「ホントに?ホントに尽が何かしでかしたんじゃないのね?」


珪くんが思い切り溜息を吐いた。


「……行くぞ。花見……するんだろ?」


そう言うと珪くんはスタスタ行ってしまった。


「なんなのよ……もう……。」


それからずっと珪くんは黙ったままで……
わたしが話し掛けても「ああ」しか言わないし……


「なんか……気まずくなっちゃったな……。」


どうしたら良いんだろう?

……なんか悩み増えちゃった……

「尽……どうしてるかな?」


生意気な口を利く尽だけど……
わたしが落ち込んでいる時は相談にも乗ってくれたっけ……


「ダメだなぁ〜……」


今は尽の事でも悩んでるのに本人に頼ってどうするのよ?


「ホント!頼りないねえちゃんね、わたしって……」


シッカリしなくちゃ!
……尽が珪くんのお家から帰って来る前に……

いつもの、ねえちゃんらしくならなくちゃ!!

♪♪〜♪〜〜

「!?……えっ……携帯?」

誰だろう?こんな時間に?
……もしかして…尽?


慌てて携帯のディスプレイを見ると……


「もしもしっ!珪くん!?」
「!…………起きてたのか?」


携帯の向こうで息を呑む珪くんがいた。


「悪い……こんな時間に……」

驚いた。

まさか起きてるなんて思わなかったから……


「ううん!大丈夫だよっ!眠れなくて勉強でもしようかって思ってたとこだから。」

携帯の向こうから明るい声が聞こえる。
闇を照らす灯りのように……


「……そうか。」


○○○の声は……俺を安心させる。
……ホッとするんだ。

ヤバイな……重症だ。

 

「花見……悪かったな。」
「えっ!?」
「……おまえ、ゆっくり見れなかったんじゃないのか?」
「そっ、そんなことないよ!!」
「…………ウソツキ」
「う〜〜〜」
「クスッ……また行こう。」
「え?」
「花見。……まだ桜は散ってないだろ?」
「!!……うんっ!!」


次の休みに一緒に行こう。
おまえが俺といてくれるなら……何処にだって行ってやる。

「早く寝ろよ。」
「珪くんもね!」
「ああ。俺も寝る。ぐっすり眠れそうだ……」
「そう?良かったね。」
「……おやすみ。」
「おやすみなさ〜い!」

電話……して良かったな。

夜中だから出ないと思ってた。
でも掛けずには、いられなくて……

毎日、おまえの声が聞けると良いのに……


窓に目をやると月が出ていた。
さっきまで見ていた夜空と……今、見る夜空とは違うような気がする。
月のせい……か?

「……いや……違うな。声を聞いたから……か。」

クックッ……本当に重症だ。

「○○○病……だな。」

胸の中が暖かい。

この暖かさを胸に……俺はベットに潜り込んだ。




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