Night of beginning 19
アイツが………
…尽の存在が……
俺の中で、どんどんデカくなってくる。
………俺の不安を掻き立てる。
それは………
自然に兎羽子の側に居られる存在だからなのか?
………それとも
尽が兎羽子を姉以上の目で見ていると思ったからなのか?
「ふっ…いや……両方か」
兎羽子と花見に出掛けてアイツの顔を見た時………
俺の中で確信に変わり始めている。
「同じ相手を想っている………と、いう事か?」
シャワーから出た俺は、もう眠る気にはなれなかった。
部屋に戻った俺の目に最初に飛び込んできたのは………兎羽子に貰ったパズルだった。
そう………
1年の誕生日に貰った、ねこのジクソーパズル。
ニヤニヤしながら手渡されたっけ………
「クスッ………ニコニコだったか」
他人の誕生日なのにな。
まるで自分の誕生日のように嬉しそうにしていた。
あの時は………
まだ、そんなに話もした事が無かったのに。
兎羽子は俺の好きなものを知っていて………不思議だった。
………俺の事を忘れているのに
誰よりも俺の事を分かってくれているみたいだった。
教会で再会した時
兎羽子は俺の事を忘れていて………
俺は昔と変わってしまったのだから仕方ないと………
そう思って諦めていた。
俺も………
そんな自分を持て余していて。
忘れているのなら、それでも良いと思ったんだ。
だから………
兎羽子が話し掛けてくれても俺は冷たく接していた。
それなのに兎羽子は、何度も俺に声を掛けてくれて………
誕生日まで覚えていてくれた。
俺自身が忘れている誕生日を………
「特別な日………か」
兎羽子は俺の誕生日を特別な日と言ってくれた。
そんな事を言われたのは初めてで思わずヘンな奴って言ったけど
俺………嬉しかったんだ。
嬉しいって気持ちすら忘れていた俺に
いろんな感情を思い出させてくれた。
だけど………
やっかいな感情まで兎羽子は俺に思い出させて………
「いつになったら俺は………おまえの特別な人間になれるんだろうな?」
不意に、さっき見た夢を思い出す。
兎羽子が俺から離れて行ってしまう夢。
叫んだ俺を振り向きもせず立ち去る兎羽子の後姿を………
俺に背を向け歩き出す兎羽子の向かう先には………
その向こうには………尽が居た。
おまえと尽は………
ピッタリ合ったパズルのピースのようだな。
じゃあ俺は?
俺はどうなんだろう?
兎羽子と尽のように………
おまえと合ったピースなんだろうか?
俺と、兎羽子は………
いつまでも完成しないパズルみたいだ。
おまえの側にまで辿り着けるピースが
いつまで経っても見つからない。
どうすれば………
どうすればアイツのように………
尽のように合うんだろう?
………おまえの側に行けるんだろう?
窓を開けると春の夜空が広がっていた。
二人で行ったプラネタリウムを思い出す。
兎羽子の言った願い事も………
「なぁ………俺も願えば叶えてくれるか?」
昔、星に願いをしたように………
願わくば………
あの夢のようにはならないように。
兎羽子が………
俺の側に居てくれるように
………願わずにはいられない………