Night of beginning 32
……見つけた。
アルカードに兎羽子は戻っていなかった。
電話でマスターが教えてくれて……。
いつも兎羽子と出掛けた後、必ず立ち寄る小さな公園。
ここに居るような気がして来てみたら……
「……アタリだな。」
花壇の側に兎羽子は蹲っていた。
「……兎羽子」
「!!……珪くん」
近づいて、そっと呼ぶと蒼ざめた顔をした兎羽子が弾けるように俺を見上げた。
?……手……震えてるのか?
「おまえ……」
「!ごっ、ごめんなさいっ!!」
「……え?」
「聞くつもりなんて無かったの!ホントよ!!」
兎羽子は堰を切ったように話し出した。
蒼かった顔が今度は赤くなっている。
「兎羽子」
「知らなかったの!……侭くんが……珪くんのこと……!!」
「兎羽子っ!」
「!!え……あっ!?」
俺は兎羽子の手を掴み自分の方に引き寄せた。
「……珪……くん……?」
「……違うんだ」
「?あ、あの……?」
「おまえ、勘違いしてる……」
「かん……ちがい?」
兎羽子の大きな瞳が俺を捉える。
「……そう。アイツが……侭が好きな相手は俺じゃない。」
「好き……な……?」
「そうだ。」
「あっ……!!違う……の?」
「ああ。違う。俺は話を聞いてやっていただけだ。」
「な……なんだ……違うんだ……」
兎羽子の手から力が抜けていく。
「……ホッとしたか?」
「うん!……って……えっ!?」
俺は兎羽子の手を強く握ると、そっと耳に近づき囁いた。
「どっちにホッとしたんだ?」
「なっ!?」
「……アイツの相手が俺じゃなかったことか?」
「け、珪くん?」
「それとも……どっちだ?兎羽子……」
「やっ……!珪くん!?」
兎羽子の手を解放してやる。
慌てて俺から離れ耳を押さえながら……
……真っ赤な顔をしている兎羽子。
「クスッ……」
「!?あっ……?あ〜〜〜っ!?珪くん!わたしのこと、からかったんだぁ〜〜っ!!」
「クスクスクス……ハハハ」
「ひっどぉ〜いっ!!」
拳を上げる振りをして赤い顔のまま戻ってくる。
……ああ、いいな。
まだ……今のままでも……
卒業まで、まだ時間はある。
だから……それまでに……
「覚悟しとけよ?」
「え?」
俺はフワリと兎羽子を抱き上げた。
「きゃあ〜〜っ!!な、なに!?なんなの珪くんっ!?」
「ハハ……」
尽……
俺はまだ兎羽子に自分の気持ちを話せない。
昔の事も話してやれない。
でも……
誰にも兎羽子を……譲る気は無いから……。
「……覚悟するのは俺の方か」
一瞬、不思議そうな顔をした兎羽子を下ろしながら……
俺は、そっと呟いた。
まだ兎羽子は俺だけを見ているわけじゃない。
だから、兎羽子。
卒業までの日々を俺だけに、くれないか?
俺だけを……
俺だけを見て欲しい。
俺の心が兎羽子で一杯のように……
兎羽子にも……俺の事で一杯にして欲しい。
これからも、ずっと……
兎羽子の傍に居たいから……
兎羽子に……
居て欲しいから……
……俺も頑張ろうと思う。
兎羽子に俺の手を取ってもらう為に。
他のヤツじゃない、俺だけの手を……
「……まずはアレから始めるか」
「?なに?珪くん?」
キョトンとした顔をして兎羽子は俺を見上げてくる。
「なんでも……いや。……次に作るの考えてた。」
「作るって……シルバーのアクセサリー?」
「ああ。残りの休み、工房に行こうかと思って……」
「そっかぁ〜!そうだね。珪くん、春休みは工房に行ってたんだよね。」
「……ああ。でも……花見には行くからな。」
「え……?あっ!うん!行こう!!約束だよ?」
「!!……ああ……。約束……」
あの夏の日に、おまえに似合うの作ってやるって言った。
そして……
『王子は、必ず迎えにくるから……』
それが出来上がったら……
俺……
必ず、おまえを……
それまで……
もう暫く、待っててくれ……
おまえを失わないために、俺……頑張るから……
おまえを……
……離したくないから
約束だ…兎羽子……
END