Night of beginning 6
「お母さん!尽がいないよ!」
わたしは慌ててキッチンに駆け込んだ。
リビングにはお父さんしかいない。
勿論、キッチンにはお母さんだけ……。
「あら?そう?」
「春休みになったから、朝から遊びに行ったんじゃないか?」
お母さんのノンビリとした返事に続いて、新聞を読んでいたお父さんが言った。
「だけど、ちょっと早すぎない?まだ8時にもなってないのに?」
「そんな事無いわよ。あの子、早起きだし。○○○だってバレンタインの時はチョコレート作り、朝の5時から手伝ってもらってるじ
ゃない?」
「!そ、そりゃ……そうだけど……。」
「なんだ?○○○は彼氏に渡すチョコを、尽に作ってもらってるのか?」
「ち、違うよ!作ってもらってないってば!手伝ってもらってるだけ!」
「似たようなものよ。ねぇ、お父さん。」
「そうだな。……でも笑えるな。尽が作ったチョコを○○○が作ったと思って貰ってるんだろ?……っくっくっ」
「もうっ!違うったらっ!!」
「朝から騒がないの。あの子はシッカリ者だから大丈夫よ。あ、お父さん。そろそろ出掛ける時間ですよ。」
「ああ、そうだな。それじゃ、行くか。」
面白がって笑っていたお父さんが、大きな鞄を手にして玄関に向かった。
お母さんも大きめのバックを取り出してエプロンを外しだす。
「あれ?どこか行くの?」
「あら?言ってなかった?」
「俺は出張だよ。帰って来るのは4月6日の夜になるかな。」
「私はお祖母ちゃんの所よ。調子が悪いらしくて暫く入院するから手伝いに行く事になったの。」
「そんなの聞いてない〜」
「尽は知ってるわよ?気をつけて行って来てって言ってくれたわ。」
「……う〜〜〜っ……」
「大丈夫よ。私はお父さんより早く帰れると思うから。」
「……早くって?」
「そうね。伯母さんと交代だから……伯母さんが一人でも大丈夫だったらね。」
わたしは驚いてしまった。
それって、もしかすると長びくって事でもあるんじゃ……!
「おい。もう、そろそろ出ないと遅れるぞ。」
「あ、はいはい。今、行きます。じゃあね、○○○。あと頼んだわよ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!お母さん!!」
「アンタも高校3年生になるんでしょ?留守番くらいでガタガタ言わないの。心配しないでも尽が手伝ってくれるわよ。」
「その尽は、どこに行ったのよぉ〜?!」
「お腹が空いたら、ちゃんと帰って来るわよ。お金はいつもの所に置いてあるから。いってきます。」
「あっ!お母さん!!」
……行っちゃったよ……
尽だけでも連れて行けば良いのに。
小学生なんだし……丁度、春休みでもあるんだから。
どうすんのよ……わたしだって予定があるのに……
バイトも入ってるし……困ったな。
尽……早く帰って来ないかなぁ?
わたしは膝を抱え玄関に座り込んだ。
壁に掛けられた小さな鏡に、途方にくれた、わたしがいた。