Night of beginning 8
♪♪♪♪〜♪♪♪〜♪……
リビングに置いてある時計が曲を奏でている。
葉月……遅いな。
明け方、氷室先生に捕まったオレは、葉月の家に転がり込んだ。
事情も説明した。
葉月って無表情が多いけど、この話には結構反応してたな。
そりゃそうか。
こんな話、信じろって方がおかしいよな。
でもアイツ……最後まで話を聞いてくれたな。
それってオレが、ねえちゃんの弟だって言ったからか?
ねえちゃんの名前が出るまでは眠そうな顔して、コイツなに言ってんだ?って感じだったのにさ。
葉月の奴……ねえちゃんの名前には凄く反応するよな?
オレがねえちゃんの弟の尽で、眠ってるうちにこんな身体になったって言った途端に顔色変えて。
「……○○○の……弟?」……だもんな。
いい加減、名前覚えろっつーの!
いつまで弟呼ばわりなんだ?
それは名前じゃねーっての!
……たくっ!
ま!いいけどさ!
それより腹減ったよな。
もう7時廻ってるもんなぁ。
いつもならとっくに晩御飯が終わってる頃だ。
育ち盛りなんだぜオレ?
どーすんだよ……。
さっき、悪いと思ったけど葉月ん家の冷蔵庫を覗かせてもらったんだ。
けど……。
なんなんだよ?アレ?
冷蔵庫の中、ミネラルウォーターだけだし!
ついでに棚も覗いたら、入ってる食いもんは全部ツナ缶!
アイツ、どんな食生活送ってんだ?
あんなデカイ身体してんのに……。
なに食って生きてるワケ?
寝てるとこばっか見かけるけど、寝てたら腹減らないのかなぁ〜?
小学生のオレだって、よく食うのに。
「そういや葉月の奴……」
ねえちゃんの手作り弁当……食った事あるんだよな?
デートから帰って来たねえちゃんが、葉月はカイワレが嫌いだって笑ってたっけ……。
「ちぇ!贅沢な奴だよなっ!」
オレはソファに深々と座り込んだ。
ねえちゃんの弁当食って、文句言ってんじゃねぇーよっ!
「……ねえちゃん…………。」
父さん達、出掛けていないんだよな……。
……ねえちゃん、一人で大丈夫かな?
「よしっ!」
オレは勢いをつけてソファから立ち上がった。
「葉月は今日も遅いみたいだし!オレは腹が減ってる!……と言う事は!」
葉月から預かった、家の合鍵を手に玄関に向かった。
「そりゃー!食べに行くしか、ないっしょ!」
オレは何だかんだと言い訳をしながら、店に向かった。
そう……今日は木曜日。
ねえちゃんのバイト先のアルカードに、オレは走り出した。
立ち並ぶ店のショーウィンドーに映るオレは、いつものオレとは違っていて……。
そんなオレを…………オレだけが見ていた。