Night of beginning 23
ねえちゃんが、沈んだ顔でベンチに座った。
葉月と……なにかあったのか?
オレがバイトの帰りにアルカードに行くと、ねえちゃんが皿を割っていた。
ねえちゃんは高校に入ってから、ずっとこのバイトをしている。
……もう3年だ。
そんなねえちゃんが……こんなミスをするなんて……。
マスターが心配そうにねえちゃんに声を掛けている。
今日だけでも、何回も皿を割っているらしい。
なにかあったんだな?
そうでなきゃ、ねえちゃんが皿を割るなんてあるわけないじゃんか!
ねえちゃんはボンヤリしたとこもあるけど……
与えられた仕事はちゃんとこなす人なんだぜ?
オレは要領良くこなしちゃうけど、ねえちゃんは不器用で……。
だけど実力のある人だから、やれば出来ちゃうんだけど。
それに出来ない事があると出来るまで努力する人なんだ。
そんな人なんだぜ?
その、ねえちゃんが、なんで?
見ていられなくてオレが声を掛けると
ねえちゃんにマスターが休憩を取るように言ってくれて……。
オレは、ねえちゃんを外に連れ出した。
気分転換した方が良いと思ったから。
そして今、アルカードから少し離れた公園に来ている。
ねえちゃんが溜息を吐いた。
「……うさぎ」
今のオレはねえちゃんを、あだ名で呼んでる。
本当は兎羽子って名前で呼びたいけど……
弟のオレには……ちょっと無理だから。
「なあに?」
俯いていた、ねえちゃんが顔を上げた。
「悩み事?」
「えっ?」
「うん。なんか悩んでそうな顔してるからさ。」
「……そうかな?」
「そうだよ。」
ねえちゃんは不思議そうにオレを見上げた。
「……侭くんて……わたしの弟と感じが似てるね。」
「えっ!?」
「あっ!ごめんね!ヘンな事言っちゃって!」
「……いや。別に……良いけど。」
……ビックリした。
バレたのかと思った……。
ねえちゃんは、俯いて黙り込んでしまった。
こんな、ねえちゃんは珍しい。
なんか、いつものねえちゃんじゃないみたいだ。
……こんな顔もするんだな。
オレ、この身体になってから
いろんなねえちゃんを見たような気がする。
今までオレが知らなかったねえちゃんを沢山……。
「なにかあるんなら言ってみたら?」
「……え?」
「オレ、聞いてあげる事しか出来ないけど……。話してスッキリする事だって……あると思うからさ。」
「……あ。ありがとう……。」
「いや……。」
オレ……ねえちゃんに、そんな顔してほしくないよ。
哀しそうな……苦しそうな……
……そんな思い詰めた顔を……。
「……あの……ね。」
「?うん。」
話す気になったのか、ねえちゃんがオレを見上げた。
「わたし……弟がいるんだけど……。」
「……!!」
オレはビックリして声が出なかった。
なんでココでオレの話題なワケ?!
もしかしてバレてんの!?
オレが尽だって事?!
そんな同様をしているオレをよそに、ねえちゃんがポツリと話し出した。
「本当の……弟じゃないの。」
「え?……」
「……本当はイトコ同士で……。弟は……お母さんの亡くなった妹の子供なの……。」
「!!」
オレとねえちゃんの間を……春風が吹きぬけた。
その風は、ねえちゃんとオレとの……
姉弟だった日々を……
攫って行ったような気がした……。
……そしてオレは。
オレの中で……
何かが壊れる音を聞いていた……。