Night of beginning 25

 

 

兎羽子が悩んでいたのは知っていた。

でも……
何が原因かなんて分からなかった。


俺は……
自分の想いだけで一杯だったから………………。




俺がアルカードに来た時、兎羽子はいなかった。
マスターが俺に、休憩中だと教えてくれた。



そして……
尽と一緒だとも……。



兎羽子は1年の頃から、ここでバイトをしている。
そんな兎羽子が最近じゃ、失敗ばかりしているらしい。


今日は特に酷いらしくて。


最初の頃は、よく失敗をしていた。

俺の撮影中にコーヒーを届けに来て、カメラマンに叱られていたから……。
でも今じゃ慣れたもので、兎羽子でないと困るくらいだ。



兎羽子が撮影所に届けに来ると
スタッフみんなが兎羽子に声を掛けるようになった。


兎羽子は明るくて元気で。
誰にでも優しいから勘違いするヤツまで出てきてる……。



そういうの、気にはなってたけど……俺。
……上手く言えなくて……。


それに……俺……怖かったんだ。


……そういう事を言葉にしてしまったら……。


また、おまえが俺の前から消えてしまうような気がして……。



……だけどアイツは、いつも俺の側にいてくれて……。

おまえはいつも……笑っていてくれたから。

俺は……



それに慣れてしまった俺は……どうすればいい?


おまえが、いなくなるなんて……
俺の側から消えてしまうなんて……

そんなこと……!



だけど………このままじゃ……!




「珪くん?」
「!!」


その声に振り向くと………

兎羽子と…………尽がいた。






「話があるんだ。」
「………話?」
「ああ。」




侭くんと二人で、アルカードに戻ってくると珪くんが来ていた。
二人とも、深刻そうな顔で話してる。


………なにかあったの?



今日は4月1日。
木曜日で、わたしも珪くんもバイトの日だった。


侭くんもバイトの日だったのか、お店に来てくれて。
失敗ばかりしていたわたしを、励ましてくれた。


最近のわたしは失敗ばかりだったから。

そして今日も………。



……あの子の。
尽のことばかり考えていたから………。



でも侭くんが、わたしの話を聞いてくれて。
尽の事で悩んでいたわたしは少しホッとした。



侭くんと話してると………
……尽に話してるみたいだったから。



どうしてかな?
似てる………から…かな?




それに侭くんと話してると落ち着くのは………なぜ?




「うさぎ!」


呼ばれて振り向くと侭くんが、わたしの側までやって来た。


「なに?」
「オレ、葉月にちょっと話があるから。」
「?そうなんだ。」
「………兎羽子。」


珪くんを見ると、なんだか疲れた顔をしている。



「珪くん?」
「あとで………俺、また来るから。」
「………うん!待ってるね。」
「ああ………。」


珪くんが寂しそうに微笑んだ。


この珪くんの笑顔………
はば学に入って間もない頃、よく見かけた。

最近じゃ、こんな笑顔しなかったのに。



………なにかあったの?珪くん。



凄く気になったけど聞いちゃいけないような気がして………。


だから………いつも聞けずにいたの。



でも………!




「兎羽子ちゃん!」
「!!はいっ!?」


マスターの声に驚いて、店内に眼をやるとお客さんで一杯になっていた。


「ごめん!カウンター入ってくれる?」
「………はい!」



二人の後を追おうと思ったけど。
………これじゃあ無理みたい。



わたしはエプロンを付け、カウンターに入った。

 

 

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