Night of beginning 9
「アイツ……何処に行ったんだ?」
撮影所から戻った俺は……
兎羽子の弟……尽がいないことに困っていた。
いくら身体がデカくなっても中身は小学生……だったと思う……。
兎羽子が弟は小学生だって……言ってたよな?
兎羽子がアイツの心配するの……なんかイヤだ。
姉弟だから仕方ないけど……。
前に見かけた子供のままだったら……
こんな気持ちにはならなかった…と、思う……。
「デカく……なったから……か?」
兎羽子と並んでも、おかしくないくらいに……
「ハ……なに考えてるんだ……俺?」
俺はまた家を出た。
兎羽子の弟を、そのままにしておけない。
「探さなきゃ……な……。」
そうだ。
そうでないと兎羽子が心配する。
アイツにあんな顔させたくない。
弟の事で……あんな顔……
……弟だから、心配するんだよな?
そうだろ?
……兎羽子?
アルカードの窓に映っていた子供の頃の俺……
……あれは俺の…弱い心が……見せたのか……?
……昔の……
親の都合で……何も出来ずにいた、あの頃の……。
「!俺は……!!」
俺は、わけの分からない不安に
押し潰されそうになりながら、坂道を走り出した。
脇を走る車のフロントガラスには、今にも泣きだしそうな俺がいた……。
「お疲れ様でした〜!」
「はーい!お疲れ〜」
アルカードを出ると、身体が震えた。
3月と言っても、今年は何だか肌寒い日が続いている。
「ハァ〜……今日は帰ったら一人か〜」
わたしは溜息を吐きながら夜道を歩き出した。
両親は出掛けていて弟は同級生のお家にお泊り……。
……って、言っても小学生の弟のじゃなくて、高校生でわたしの!
同級生ってどういうことなのよ?
「ほ〜んと!困った子なんだから!」
「なにが困ってるの?」
「きゃっ!?」
「酷いなぁ〜!そんなに驚くことないじゃん?」
「あっ!すみません……。」
……ビックリした。
人が居たのね……。
ブツブツと独り言を言っていた
わたしは気づかなかったけど……
結構、周りに人がいたんだ?
恥ずかしいぃ〜〜〜!!!
走り出そうとした私の腕を、誰かが引っ張った。
あれ?
さっきの人?
「こ〜んな夜道に一人じゃ危ないよぉ〜?ボクが送って行ってあげるからさぁ〜」
な……に?…この人?……
「あ〜そうだ!まだ時間も早いしぃ〜二人でお茶してから行こうかぁ〜?」
「ちょ、ちょっと、離してください!わ、わたし……。」
「離せっつってんの、聞こえねぇーの?お兄さん?」
えっ!?
…だ……れ?
後ろを振り返った私の目に、飛び込んできたのは長身の男の子だった。
掴まれていた腕を、サッと外してくれた。
「なにすんだ!テメェ!!」
「なにすんだは、こっちのセリフ。オレの彼女に何か用?用があるんならオレが聞くけど?」
え?
……えっ?
か、彼女って……
……えーーーーっ?!
わたしーーーー!?
パニックになっている、わたしをよそに、その男の子は私の肩を抱いてニッコリ微笑んだ。
「なんだと!?」
「どーすんの?話なら聞くよ?それとも出るトコ出る?」
そう言うと彼は男の人に近づいて行った。
「けっ、やってらんね〜ぜ。ちょっと声かけただけじゃねえか。」
「そっ?じゃあ用は無いんだね……だったら」
バキッ!!!
!!……彼が側にあった街路樹を殴った……!
「……二度とオレの彼女に、ちょっかい出すんじゃねぇーよ。」
「!!ひっ!!!」
転がるように男の人は走って行ってしまった。
……行っちゃった……。
ハア、よかった……。
ホッとして振り返ると怖い顔をした彼が、わたしを見て溜息を吐いていた。