Night of beginning 13

 

……尽の顔が変わった。




振り向いて俺が見た尽は、沈んだ顔をしていた。
闇に囚われ、今にも沈み込んでしまいそうな顔を……。



そうだ。
俺は知っている、その闇を…………。

俺も兎羽子に再会するまでは、その闇に居たから…………。

でもアイツ……強いな。
自分で闇を払ったみたいだ。
俺には出来なかった事を…………。

俺は兎羽子に救われた。
自分では、抜け出せなかった闇に兎羽子が光をくれて……

俺を闇から、解き放ってくれたんだ。



だから……
アイツの……尽の顔を見た時。
俺と同じ闇に居る事が分かったんだ。

抜け出したくても、抜け出せない
……心の闇に…………。

アイツも俺と同じだ。
兎羽子と言う光を求めている。

 

 

良かった。
侭くん、大丈夫そうで……。


わたしが絡まれたのを、珪くんと二人で助けてくれたあと
元気が無かったみたいだから。


……どうしてだろう?
なんか侭くんって、初対面な気がしないな。
凄く、一緒に居て落ち着くのは何故なんだろう?

それに……

どう見ても、わたしよりもシッカリしてそうなのに。
どこか儚くて壊れてしまいそうな……。

あの子に……

尽に……似てる。


あの子も、姉のわたしよりシッカリしていて要領の良い子だけど
人の顔色を見て、自分の感情を抑えてる。

……わたしは高校生になってから、あの子には怒ってばかりだ。

本当は昔のように……
ゆっくり相手をしてあげたいけど……。

単純なわたしは直ぐに顔に出ちゃうから。

一緒に居る時間が長いと絶対バレちゃうよ。
わたしに隠し事は到底無理だったんだ。


いつも笑って良いお姉ちゃんでいたいのに……!

ごめんね、尽。
尽はいつも、わたしの事を気に掛けてくれる
優しい弟……なのに……ね……。

なのに、わたしは……
アンタが珪くんの所に、春休みの間
お世話になる事になって、ホッとしているんだ。

こんな気持ちをアンタに気づかれなくて済むから…………。

ごめんね……わたし
悪い、お姉ちゃんだね。

尽が家に帰って来る頃には……
頑張って以前のわたしに戻っておくから。

だから……
今は許して?

こんな感情を……
大切な弟に持ってしまったわたしを……

許して……尽…………。

 

 

葉月と二人で、ねえちゃんを家まで送って行った。

一人で留守番をさせるなんて、凄く心配だったけど
今はどうする事も、出来ないから……。


オレは……側には、いられないし……。

ねえちゃんを心配しているのは、オレだけじゃない。
葉月も……
アイツも、心配しているみたいだ。


葉月でも、こんな顔するんだな……。
ねえちゃんと、デートしてた事は知ってたけど。

いつもの顔と……違い過ぎ。

オレが葉月に、ねえちゃんの携帯番号渡した時
凄い顔で、睨まれたよな?
多分、オッカケと間違われたんだろうけどさ。

興味無さそうにしてたから、捨てるんじゃないかと思ってたけど……。
ちゃんと、ねえちゃんに掛けてたんだな。


……アイツ。

もしかすると電話の相手、誰でも良かったんじゃねぇの?

だとしたら……!

アイツいろんな女に電話してるんじゃ……!!


「おい。」
「!!……な、んだよ?」


……ビックリした。


オレは考え込んでいて、葉月の家に着いたのも気がつかなかった。


「どうかしたのか?」
「べつに……なんでもない。」
「おまえ……。」
「?」


葉月はオレを、怪訝そうに見たあと溜息を吐いた。


「おまえ……兎羽子と同じだな……。」
「ハァ?ねえちゃんと?なに言ってんだ?葉月??」


葉月は玄関を開けながら、ボソリと呟いた。


「兎羽子も……そうだから。」


それだけ言うと、家の中に入って行く。
オレは慌てて、後を追った。


「何だよ?葉月?ちゃんと教えろよ!」


コイツって、何でいつもポツリ、ポツリとしか喋らないんだ?
こんなんでよく、ねえちゃんと会話出来てんなぁ?

……つぅーか、してんのか?会話??

「アイツも……。兎羽子も、何か俺に言いたい事があっても……我慢して言わないから。」
「!!」


葉月は振り返って、オレにそれだけ言うと、自分の部屋に行ってしまった。



……なんだよ……。
葉月のヤツ……

ちゃんと、ねえちゃんの事……見てるんだな……。


そうだ。
ねえちゃんは、いつも言いたい事を我慢してるとこがある。
多分、オレが生まれてからじゃないのかな?

オレが生まれてから、ねえちゃんは母さん達に甘えなくなったって
前に父さんが言ってた。
お姉ちゃんになったからって、本人は言ったみたいだけど……。

母さん達を、困らせたく無かったんだと思う。
天然で、何も考えて無いように見えるけど……。
いろいろ考え過ぎて、人にばっかり気を遣ってるとこがあるから。


ねえちゃん……。
葉月の事も、いろいろ聞きたい事あるんじゃないのか?
モデルなんてやってると、噂なんて多いだろうし……。
オレが知ってるだけでも結構な数だ。

でも、それを聞いて相手が……
……葉月が傷つくんじゃないかって考えたら……
絶対、聞かないだろうな……。


オレは、ねえちゃんの方が心配だよ。
ねえちゃん……傷つかなきゃ良いけど……。


イイ男リサーチなんて言ってるオレだけど、別にオレは調べたくてやっているわけじゃない。
ねえちゃんがヘンな男に引っ掛からないように、したかっただけなんだ。


イイ男になるって真似る事じゃなく、自分を磨く事だと思うから。

オレは蕗乃尽という、一人の人間として男を磨くんだ。

ねえちゃんが……

オレが弟だっていう事を……後悔させるぐらいに……!


さっき、ねえちゃんに侭って名乗ってからオレに芽生えた一つの想い……。

それは、ねえちゃんの弟の尽じゃなく一人の……

侭っていう一人の男として、ねえちゃんに、見てもらう事……!




今のオレは……
その想いに囚われていた…………。

 

 

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