Night of beginning 12
……面白いな。
やっぱり似てる。
姉弟……なんだな。
俺が言った言葉に、二人して固まっている。
……変な事……言ったか…俺?
尽が氷室に言った事に……合わせただけなんだけどな……?
「葉月…おまえ……。」
「ん?」
尽がまだ驚いている。
なんだ?
ダメだったのか?
おまえが言ったんだろ?
俺のイトコって……?
「えーーーーっ!?二人ってイトコ同士だったのーーー!?」
兎羽子が嬉しそうに、俺の手を掴んで振っている。
こういうとこ……子供の頃のままだな……。
「でも、あんまり似てないね?」
「……そうか?遠い親戚だしな。」
「そ〜なんだぁ〜」
俺達が話している隣で、尽が口をパクパクと動かしている。
コイツ……
結構……面白い。
…………そうか。
兎羽子の弟だし……
……当然か。
そんな事を考えてる俺の腕を、尽が引っ張った。
「葉月!ちょっと!」
「なんだ?」
兎羽子から少し離れた所に、俺は連れて行かれた。
「どうした?」
「どうしたじゃねぇよ!なんだよ侭って?オレそんな事まで決めてねぇぞ!」
尽が勢いよく喋りだした。
「ああ。そうだったか?尽って呼んだ方が良かったか?」
「!…いや、それは困るけど……。」
「なら、それにしとけ。」
「しとけって……葉月ぃ〜おまえなぁ……。」
「……俺は、かまわない。」
「おまえって……やっぱ何考えてんのか分かんないや……。」
「?」
大きな溜息を吐きながら、尽が俺の肩を叩く。
「冷蔵庫の中身だよ!それとツナ缶!」
「……ああ。なんだネコ缶が欲しかったのか?今、切らしてるんだ。」
「違ぁ〜うっ!なにオオボケかましてんだよ?オレはメシの話してんの!」
「腹……減ってるのか?」
「減ってたさ!さっきまでな。ねえちゃんにパフェ奢って貰ったから今は腹一杯だけど。」
「……そうか。悪かったな。あとで何か買っとく……。」
「!…………いや、いいよ。オレが勝手に葉月ん家に来てんだからさ。」
尽と小声でやり取りしていると、後ろで兎羽子の声が響いた。
「ちょ、ちょっと、離してください!わ、わたし……。」
尽と二人、慌てて兎羽子の元に戻ると、アイツの手を握っている男がいた。
うろ覚えだが以前、兎羽子との待ち合わせで絡んできた奴だった。
「なんだ、てめぇら?」
「汚ねぇ手、どけろ。」
「気安く触ってんじゃねぇーよ。」
俺と尽の声が重なる。
尽……?……おまえ……
俺の中で……また不安が広がっていく。
そんな不安に縛られている俺をよそに
尽はあっというまにその男を追っ払っていた。
「……ありがとう。」
「……大……丈夫か……?」
兎羽子の声が俺を呪縛から解き放ち
やっと出た俺の声は震えていて……。
そんな俺に兎羽子は、笑顔をくれる。
視線を感じ振り向くと、さっきの勢いは何処へ行ったのか。
尽が沈んだ顔をして、佇んでいた……。
……やっぱり……葉月の方が……良いのかな……?
葉月がオレに名前を付けた事で、話し込んでいたら
ねえちゃんが、また男に絡まれていた。
オレが側を、離れたから……
……いや……
別にオレじゃなくても
葉月が、居れば良いのかもしれない。
弟のオレなんかよりも…………
「おい!」
「!!」
オレの意識が、自分の想いに囚われかけた時
葉月が、オレの肩を揺すった。
「兎羽子が心配する……そんな顔するな……。」
「!……」
慌てて、ねえちゃんの方を見ると眉間にシワがよっている。
クスッ……。
ダメだろ、ねえちゃん。
男に、そんな顔を見せちゃ……さ。
いつも笑ってなきゃ、モテないぜ?
ねえちゃんの眉間に、シワが入る時って……
相手を心底、心配する時……なんだよね。
そんなねえちゃんに近づいて、オレはトビキリの笑顔を見せた。
「どうしたのさ?そんなに眉間にシワなんて作って?女の子が、そんな顔しちゃダメだぜ?」
「なっ!……シワなんて作ってないよ!」
「そう?じゃあ、コレな〜んだ?」
「きゃっ!!」
オレは、ねえちゃんの眉間に指を当て、ぐりぐりとマッサージしてやった。
「何するのよぅ〜!?」
ねえちゃんは眉間を両手で押さえて、真っ赤な顔でオレを睨んでる。
「アハハ!ごめん!ごめん!でも、眉間のシワ、取れただろ?」
「あ……!」
前髪を上げて眉間を撫でた後ねえちゃんは、さっきよりも真っ赤になってしまった。
「〜〜〜!!もぅ〜……心配したのに……。」
……やっぱりね。
そうだろうと思った……。
ねえちゃんは恋愛系統は鈍いけど、人の喜怒哀楽には敏感だもんな……。
オレ……
そんなに酷い顔……してたんだ……。
ねえちゃんに、あんな顔を……させるくらいに…………。
ダメなのは、オレの方だな!
オレのモットーは、物事全て愛想良く!……だったのにな。
どんな相手でも……
どんなに嫌な事でも……
ニコニコして対応すれば無難にやり過ごせたんだ。
今回の事だって……出来ない事は無いはず。
……オレが要領良く、いつものようにすれば良いだけ。
そう……
いつものように…………。
自分の感情に……
……ねえちゃんへの……想いに……
振り回されなきゃ……
……上手く演れる……はず……!
オレは殊更ニコニコして、ねえちゃんに自己紹介をした。
「オレ、葉月のイトコで侭って言うんだ!以後ヨロシク♪」
そう名乗ったオレに……
新なた想いが……芽生えていた…………。