Night of beginning 14

 

 

アイツ……

尽の様子が変だ……

……何を考えてる?





3月28日(日)




兎羽子の弟……
尽が家に来て3日が経った。


その間、アイツの身体は元の小学生に戻る事は無かった。
その気配すら無さそうだ……。


それに……。


最初に会った時は、不安で押し潰されそうな顔をしていたのに……。
今は……
この状態を、楽しんでいるみたいだ……。


まるで……
元に戻る事を……
拒んでいるようにも見える。



……何か、考えがあるのか?
元に戻らないと家に帰れないぞ?


早く戻らないと……

……兎羽子が心配するだろ?


俺の心配をよそに、尽は毎日出掛けているようだ。



「……どこに、行ってるんだ?」


今日は俺も出掛ける用事がある。


兎羽子と……
森林公園に、桜を見に行く約束をしてたんだ……。



「そろそろ……出掛けるか。」


俺は玄関の鍵を閉めながら、尽の事を考えた。



このまま、元に戻らなかったら?


アイツ……どうするんだろうな。


……俺と一緒に……ここで暮らすのか?


兎羽子の弟だし……
……俺は別に……嫌じゃないけど……



クスッ……
アイツの方が……嫌がりそうだな。



尽はもう出掛けていなかった。



「……アイツ、早起きだよな?」


兎羽子は……苦手みたいなのに……な。
……姉弟って、似るもんじゃないのか?



「!……バカだな……。」



俺はまた……
不安に苛まれそうになっていた…………。




「今日は、わたしの方が早かったみたいね。」



わたしは森林公園に来ていた。
珪くんと、前から桜を見ようと約束していたから。


最初の頃は、わたしが珪くんを待つ事が多かったけど……。
最近じゃ、珪くんの方が早い。


待つのは嫌いじゃないから……って言ってくれたっけ。


でも、わたしも待つのは嫌いじゃないんだよ。
空とか眺めてるの好きだし。
風景とか、いつまで見てても飽きないし。


ただ……男の人に声を掛けられて困るだけ……。
尽に言ったら、ねえちゃんはボーとしすぎなんだよ……だって。



……今頃、どうしてるかな?


ちゃんと、ご飯とか食べてるかな?


まぁ、あの子の事は大丈夫よね。
本当に姉のわたしより、しっかりした子だから……。
わたしの代わりに今度は、珪くんの世話をしているかもね。


だって珪くん……ネコ缶食べちゃうし……。
……放っておけない……よね?


それにしても朝は、あの子が起こしてくれていたから。
一人になって寝坊しちゃう事、多くなっちゃった……。



やっぱり、甘えてたのかなぁ〜?


……起こしてもらうのも、当たり前になってたし。


お母さんの言うとおり……バレンタインだって。
毎年、尽に手伝ってもらってた。


……頼りない姉だったのね……わたしって…………。


「俺……遅れたな。……怒ってるか?」
「!!う、ううん!大丈夫!!怒ってなんかいないよ。」


……驚いた。


尽の事を、アレコレ考えてたから……。

珪くんが来た事、気づかなかった。


「悪かったな、待たせて。」
「気にしないで。それより桜、見に行こうよ!」
「ああ。そうだな、行くか?」
「うん!」


珪くんと二人、いつもの場所で桜を見ようと歩き出した時、人だかりを見つけた。


「なんだろう?あれ?」
「さあ……。何かの撮影じゃないのか?」
「えっ?撮影って……珪くんはココにいるのに?」
「……バカ。撮影するからって俺だとは限らないだろ……。他にもモデルなんて、いくらでもいる。」
「あっ!そうか〜。そうだね、他にもモデルさんて沢山いるよね。」
「それに……今日は、おまえと約束してるのに……。バイト……入れるつもりないから……俺。」
「珪くん……ありがとう!」


わたしは嬉しくなってしまった。
珪くんは、わたしとの約束を守ってくれようとしたんだね……。


「ふふふ……」
「……なんだ?ニヤニヤして……?」
「ニコニコって言ってよ。……あれ?」
「どうした?」
「あの人って……モデルさんかなぁ?」
「?どいつだ…………!!」
「珪くん?」


急に珪くんが立ち止まって、モデルさんらしき人を凝視していた。
その人を良く見ようと近づいた時、珪くんがわたしの腕を引いた。


「なに?珪くん?」
「……行くな。」
「え?」


珪くんの顔が、いつもと違っていた。

そんな彼を見たのは初めてで……。


わたしは、どうしていいか分からず
そのまま立ち尽くすしかなかった……。



Back   Next   Top