Night of beginning 15

 

アイツが…………何故ここにいる?



兎羽子が見たモデルは……尽だった。
俺の知り合いのカメラマンもいる。

そしてなにより……
尽の側に立っている女性は、俺のマネージャーだった……。


何やってるんだ……おまえ?


俺は兎羽子が、尽の側に行くのを思わず引き止めていた。
無意識に、兎羽子の腕を掴んでいたんだ……。


やっぱり……俺……

この不安を消せそうもない……!



「珪くん……。どうしたの?気分でも悪い?」


兎羽子が心配そうに、俺の顔を覗き込む。



「……兎羽子。俺……。」
「?」



俺、おまえにそんな顔させたくないのに……!



「葉月!」
「!!」
「?」


俺と兎羽子が振り向くと、マネージャーが
尽を連れ側まで来ていた……。



珪くんの
……マネージャーさん………



前に出掛ける約束をしようと、珪くんに電話をしたら女の人が出て……
その人が、もう珪くんに電話を掛けるな…って……


珪くんの携帯に出た人……。

撮影所にコーヒーを届けに行った時
この人が珪くんのマネージャーさんだって教えてもらった



わたし、この人が……苦手……

なるべく……会わないようにしていたのにな。


……どうして侭くんと一緒にいるんだろ?
侭くんって…

…モデルさん……だったの……?



なんでココに……ねえちゃんと……葉月がいるんだよ?



オレはバイトをするためにココにいる。


……そう。
葉月と同じ、モデルをしているんだ。


オレはある想いに囚われていた。
それは……


一人の男として、ねえちゃんの前に存在すること。


ただ……それだけの想いでオレはココにいる……。


アレから3日も経ったけど、オレの身体は元に戻る事は無かった。
早く元の身体に戻って、ねえちゃんのいる家に帰りたいとは思ったけど……


今のオレのままで……ねえちゃんと一緒にいたい………


その想いが家に帰る事よりも、強くなっているんだ。


もしオレの身体が、このまま元に戻らなかったら……?


そんな不安な気持ちとは裏腹に、ねえちゃんと対等になれることの方が……
オレにはずっと……


その想いに囚われたオレは、ねえちゃんを家に送った翌日から
バイトを探しに、繁華街に出掛けていた。

ちょうど、ゲーセンでバイト募集の広告を眺めていたオレに声を掛けてきた人がいたんだ。
また氷室先生かとギクリとしたけど……違った。

その人は女の人で……そう、葉月のマネージャーだったんだ……。


……モデルをしないかって…誘われた……。


前にねえちゃんが、葉月に電話して落ち込んでた事があった。


ねえちゃんは何も言わなかったけど……オレには分かった。
毎日、ねえちゃんを見ているオレには……。

ねえちゃんに酷い事を言ったこの人には、良い印象どころかムカついてたけど…

今のオレには……この人の誘いを断れなかったんだ……。



このまま…元に戻れなかったら…

オレは一人で生きていかなきゃいけないから。


いつまでも、葉月の家に居るわけにいかないしね。

それに今のオレは、存在しない葉月のイトコだから……。

身元とか、ちゃんとしてないと働けないんだろ?
小学生のオレだって分かるよ。


こんなオレが働ける場所なんて本当は無いのかもしれない。


けど……

この人のところでなら、働けるかも……?


そう思ったオレは、マネージャーの誘いに頷いていたんだ。

 

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